指導現場でも研究でもゲーム分析を行う際には、ツールを選択する必要があります。
現在は日本でも多くのチームがゲーム分析を行っており、ツールの選択肢も広がっています。
選択肢が多いというのはいいことではあるのですが
何を選んだらよいのかわからない
という問題が起きる可能性があります。
そこでこの記事では、ゲーム分析ツールに関して整理しました。
目次
ゲーム分析ツールでなにができるのか
分析ツールの役割
分析ツールは
- 分類
- データ収集
- 視覚化
- 共有
が主な役割となっています。
分類
サッカーの試合は多くの状況が複雑かつ流動的に表れるという特徴を持っています。
そのため、何が起きたかという「現象」を理解するためには分類が重要になります。
分類では
- 状況・局面
- 構造(フォーメーションや戦術)
- 技術(主に個人)
などにフォーカスして現象を理解することが主流となっています。
データ収集
ツールを利用することでデータを収集することも簡単になります。
測定する項目を絞ればツールを利用しなくても問題ないのですが
より多角的にゲームを見たいという場合にはそれなりの数の項目が必要です。
項目が多いと単純なカウントでは時間と労力の問題から限界が生じます。
分析ツールを利用することで労力が減ったり、半自動、ものによっては全自動でデータを収集可能です。
視覚化
『サッカーマティクス』の著者David Sumpter氏は
情報を伝えようと思うなら、複雑なデータを正確な視覚的メッセージの形で提示できなければならない
と視覚化の重要性について言及しています。
ちなみにサッカーマティクス=サッカー+マスマティクスで、サッカーのデータ分析についての名著です。
分析ツールを利用することで
- データを視覚化する(グラフなど)
- 映像を編集する
のように効果的な情報伝達を行うことが可能になります。
共有
分析結果をどのようにチームに共有するか、という問題の解決策にもなります。
共有に関しては分析ツールを用いなくても様々な方法がありますが
多くの分析ツールは、分析→編集→共有までを包括しているようです。
ツール紹介
ここからは実際のツールの紹介をしていきます。
SPLYZA Teams(株式会社スプライザ)
SPLYZA Teamsは株式会社スプライザが提供しているゲーム分析アプリです。
主に
- 映像編集
- タグ付け
- 共有
- データ分析の自動生成
を行うことができます。
使用可能機器は、スマホ・タブレット・PCとなっています。
撮影機器も特に限定はされていません。
推しているであろう機能は
一つの動画に対して複数人で同時に作業が行える
というものです。
分析班や選手によって分析を行えるチームにとっては、素早く分析ができる・コーチの負担が減る・共通理解が進むといったメリットがあるとしています。
他にもライブタグ機能やクローズドSNS、映像検索などの機能があり、
自チームだけのYouTubeのようなアプリ
と表現しています。
料金
料金は使用人数によって変わり、3つのプランが選択可能です。
プランによって月額料金・アップロード時間・解像度に違いがあります。
プラン名 | 月額料金(1人)(税込) | アップロード可能時間/月 | 解像度 |
ベーシック | 690円 | 40分 | 1080p |
ベーシック+ | 690円 | 40分 | 1080p |
アドバンス | 890円 | 60分 | 1080p |
ベーシック+はプレイヤーアカウント1名につき、サポーターアカウント1名(年払い:240円/月)が追加されることと、基本的にチーム全員での申し込みが必要なようです。
アドバンスはサポーターアカウントが作成できないので、保護者が見られないという問題があると考えられます。
保護者は見ないという場合はアドバンスの方がお得そうです。
FREEという1ヶ月の無料お試しプランもあるようなので、まずはそちらを試してみるのも良いかもしれません。
また、Sports Analytics Labでは分析事例などを見ることができます。
選手自らが分析することで「課題発見」から「課題解決」までを行うためのツールであると謳っていることもあり、
選手にも分析を行ってほしい、という指導者には特にマッチするかもしれません。
現場とは少し話がずれてしまいますが、
独特なサービスとして「卒業生向け閲覧プラン」(税込3,960円、買い切り)があるようです。
在学中にアップロードされた試合動画が見られるようなので、卒業生とのつながりを保つことを重視する場合は選択肢となるかもしれません。
Hudl・Sportscode(Hudl社)
Hudl・SportscodeはHudl社が提供しているゲーム分析ツールです。
Hudl社は
20年にわたり世界中のスポーツパフォーマンス分析を支えてきた
というパイオニア的存在です。
従業員は20か国2100人以上で、ツールは600万人、16万チーム、35以上のスポーツで利用されているそうです。
主にはHudlとSportscodeという2つのツールを提供しています。
Hudl
手軽に映像分析を始めたい人に向けたもので
- 共有
- クリップ・タグ付け
- 描き込み
- データの自動生成
などが可能です。
Hudlに関しても閲覧は媒体を選ばないようです。
見てもらいたいシーンのみをクリップして共有ということもできます。
料金
5つのプランがあります。すべて年間契約です。
プラン名 | 年額(税込) | ビデオ容量 |
ブロンズ | 76,478円 | 40時間 |
シルバー | 137,660円 | 100時間 |
ゴールド | 244,728円 | 200時間 |
ビデオ容量の他にも、プランが上がれば使える機能が増えていきます。
料金等はHP上には書いてありませんが、プラチナ・ダイヤモンドもあります。
しかし、プラチナ・ダイヤモンドに関しては格段に値段が上がるため予算が大きなクラブ向けになっていると考えられます。
大きな特徴としては、アカウント数が全てのプランで無制限という点です。
人数が多い方が1人当たりの金額としては下がるので、使い方にもよりますが、大人数の方がお得感はあります。
Sportscode
上記のHudlと比べると機能が多く、より高度な分析・アウトプットがしたい人向けのツールです。
特徴として
- ライブコーディング:カメラとMacを接続することで試合中にデータを入力することができる機能。当然試合後の編集も可能。
- コードウィンドウ:分析項目を自由に設定する機能で、スタッツの表示やグラフィカルな表現も可能。
- プレイリスト:ミーティング資料作成ツールであり、コーディング終了後にクリップを取り出し、スライドや描き込みを挿入することができる。
- 外部連携:ワイスカウトのデータをスポーツコードに読み込むこんだり、その他各種データの読み込みが可能。
があげられています。
Sportscodeの特徴は、その柔軟性にあると思われます。
項目が自由に設定可能なことから、独自の視点を項目に落とし込むことが可能です。
使い込むことでチームや自身の哲学を考慮した分析を行えるかもしれません。
独自の項目をカスタマイズしたい人には良さそうです。
料金はHPには掲載されていないため、問い合わせが必要になります。
また、注意点ですがMacでしか使えません。
hudl assist
製品ではなく、ビデオをアップロードしたら、Hudl社のアナリストが24時間以内にタグ付けしてくれるサービスです。
独自のタグは利用できませんが、Hudl社のタグを選択することができます。
契約中のプランのビデオ容量内であれば何試合でも依頼できるようです。
料金
年額(税込) | |
自チーム | 107,069円 |
自チーム&スカウティング | 198,842円 |
撮影はできるけど分析まで手が回らない人や、より効率よく分析を行いたい人には選択肢に入るのではないでしょうか。
円安の影響を受けて金額は以前と比べると上がってしまってはいますが、自チームのみなら月9,000円程度、スカウティング入れても17,000円弱で24時間以内にタグのついた映像とデータが返ってくるというのはまだまだお得感はあると思います。
Hudl(下の方)
2022.5.1追記
hudlを使い始めたので感想や使い方について記事を書きました。
myDartfish(MOBILE・LIVE S・PRO S)(ダートフィッシュ・ジャパン)
ダートフィッシュ・ジャパンはスイスのダートフィッシュ社が開発した『ダートフィッシュ・ソフトウェア』と、『ダートフィッシュTV』の日本国内における販売権利を保有した現地法人として2003年に設立されています。
分析ツールとしては3つのサービスを展開しています。
myDartfish MOBILE
myDartfish MOBILEでは動作分析ができるmyDartfish Expressアプリとカスタマイズ可能なタグ付けパネルを使用できるmyDartfish Noteアプリが使用できます。
✓myDartfish Express
Expressは、ゲーム分析ではなく個人の動作を分析するためのアプリです。
- 分割画面の比較
- スローモーションビデオの再生
- 図形のドローイング
- 測定(距離・速度・角度など)
ができます。個人分析に特化しているアプリです。
✓myDartfish Note
Noteでは、タギングパネルが利用可能です。
ただ、他のゲーム分析アプリと違い、ビデオレスタギングとなっています。
撮影は行わずに試合を目視しながらタグ付けするので、映像とのリンクはありません。
myDartfish LIVE S
LIVE Sでは上記アプリが使用できることに加えて、
- タグ付け
- データ自動生成
- 動画取り込み・編集・出力
- ドローイング
などを行うことができます。
用途的には、Sportscodeに似ているように感じます。
myDartfish PRO S
myDartfish PRO SではMOBILEとLIVE Sを包括していることに加えて
「3Dアナライザー」という機能が搭載されています。
3Dアナライザーは
撮影した試合映像に対して、キャリブレーション(フィールドの計測)をすることで、選手のトラッキングや、奥行や高さを含めた図形表示、直感的で優れた3D分析が短時間でできる。
といった機能です。
撮影した動画に対して、図形、高さ、距離、角度、トラッキング、フォーメーションのハイライト等を行うことができます。
この機能を搭載しているツールは他には見たことないので、自分の研究的にも割と待望の機能でした。
よりインパクトのある映像が作成したいという人におすすめです。
料金
プラン名 | 年額(税込) | クラウド容量 |
myDartfish MOBILE | 19,800円/年 | 50GB |
myDartfish LIVE S | 187,000円/年 | 50GB |
myDartfish PRO S | 要問合せ | 50GB |
MOBILEとLIVE S・PRO Sに関してはできることが大きく違うので料金にも大きな差があります。
こちらの注意点ですが、Windowsでしか使用できません。
2024年現在、他のツールが少しずつ値上がりしているにも関わらず料金据え置きなのは不思議。
Football Analyzer(データスタジアム)
Football Analyzerはデータスタジアム株式会社が提供しているゲーム分析ツールです。
データスタジアムは
独自のデータとメソッド、テクノロジーを駆使した価値創造により、デジタル時代のスポーツコンテンツビジネスにおけるキープレイヤーとなる。
を企業理念としており、ゲーム分析ツールのみではなくデータの提供や企画・コンテンツ制作なども行っています。
Jリーグやプロ野球の球団にデータを提供したりしてます。
Football Analyzer
できることとしては
- 試合中のボールタッチベースのプレーをもとにデータと映像を組み合わせた分析
- 検索・抽出・確認(データが映像と全てリンクしている)
- タグ付け・タイムラインの映像をまとめて出力
- 軌跡、スタッツ、試合サマリーなど11種類の方法で表示
- 映像加工(テキストの追加・お絵かき機能・シーンの並べ替え)
料金やその他のサービスに関しては問い合わせが必要です。
できることは多そうなのですが、HP上ではあまりアピールされていません。
FL-UX(RUN.EDGE)
FL-UX は、RUN.EDGE株式会社が提供しているゲーム分析ツールです。
RUN.EDGE株式会社は、スポーツ分野向け映像検索・分析サービスの開発・提供を事業内容としていて、主にはプロスポーツチーム向け分析サービスを行っています。
ただ、FL-UXではアマチュア層でも利用しやすい価格帯のプランが多いので、そちらにもリーチするようになっています。
主な機能として
- タギング
- 動画共有
- まとめ動画作成
- チャット
- ライブ分析
が挙げられており、チームの分析や戦術共有を一つのアプリケーションで完結できることを強みとしているようです。
また、動画編集や描画のスピード感も売りにしていたので
一か月の無料お試し利用で少しいじってみましたが、
操作感に関するストレスはほとんどありませんでした。
シーンの作成、シェア、チャットなども直感的に使えたので
あまり複雑な操作に慣れない人にもおすすめだと思います。
できることやUI、UXなどは、hudlに近いのかなと感じました。
料金
プランは4つ掲載されてますが、一つは完全にプロチーム向けなので、
それ以外の3つに絞りました。
プラン名 | 基本月額料金 | 分析ユーザー料金 | 視聴ユーザー料金 | アップロード可能時間/月 |
BASIC | 1,280円 | 980円/1人 | 290円/1人 | 10時間 |
STANDARD | 4,980円 | 2,980円/1人 | 450円/1人 | 15時間 |
STANDARD+ | 9,980円 | 5,980円/1人 | 750円/1人 | 20時間 |
基本月額料金に分析ユーザー1人分は入っているようなので、1人追加につき課金が必要という感じです。
また、アップロード可能時間は月単位で表示されていますが、
年間契約をすると月単位ではなく、年単位で使用できます。
なので、STANDARDだと15時間×12=150時間を好きな割合で使える感じです。
シーズン中は多く使って、オフシーズンは使わないという人もいると思うので、
そういう人にとっては、年単位契約も選択肢に入れて良いのかなと思います。
また、基本料金も15%程度下がるようです。
BEYONDO
BEYONDOは、iPhoneやiPadでの撮影・タグ付けを基本としたツールです。
これまで紹介した分析ツールよりはライト層向けかなという印象がありますが、独自路線な感じもするのでニーズが合う人もいると思われます。
面白いのはBEYONDO LIVE BETAという機能で、LIVE配信を視聴しながらタグ付けができることです。
HPでも紹介されていますが、自分の子どもの試合をライブ視聴している時にプライベートタグを作っておけば自分の子どものプレーをタグ付けできるという感じです。
他にもタグは色々と作ることができます。
管理者は人数の制約なくメンバーを招待することができるので、追加費用を気にすることなく、多くの人達に試合やハイライトを共有することができます。
Youtubeライブに視聴者独自にタグ付けができるようなイメージです。
動画のインポートができないので、他の媒体やiPhone純正のカメラアプリなどで撮影した場合はタグ付けができないなどの制約があるため、他のツールとは用途・機能が異なります。この辺りはきちんと理解しておくべきでしょう。
料金
料金プランは4つ用意されています。
プラン名 | 基本月額料金 | クラウド容量 |
10時間プラン | 0円 | 10時間 |
50時間プラン | 480円 | 50時間 |
150時間プラン | 980円 | 150時間 |
500時間プラン | 2,900円 | 500時間 |
全てのプランで機能には差がなく、シンプルにクラウド容量だけで金額が変わるという潔い形になっています。
人数も関係ないので、安く手軽にゲーム分析をやってみたいという人にはおすすめです。
保護者受けが特に良いかもしれません。
個人的には授業で使用してみようかなぁと思っています。
【結論】30人で利用した場合の料金とクラウド容量の比較
最後に単位をそろえて比較をしてみます。
対象は、用途や料金が似ているSPLYZA Teams・hudl・FL-UX・Dartfishに絞りました。
(Sports codeは上記と比べるとわりと高いので今回は除外しました。BEYONDは用途と料金の比較をするのが難しいので除外しました。)
✓30人で利用した場合(一人当たりの料金と年間利用可能クラウド容量(時間))
こんな感じでした。(FL-UXに関しては視聴ユーザー料金です。)
一人当たりの料金(月額換算) | クラウド容量(年間) | 円/時間 | |
SPLYZA Teams | 649~869円 | 120~360時間 | 2.41~5.41 |
hudl | 約212~680円 | 40~200時間 | 3.4~5.3 |
Dartfish LiveS | 約519円 | 50時間 | 10.38 |
FL-UX | 290~750円 | 120~240時間 | 2.42~3.13 |
30人の場合は選手1人当たりの料金とクラウド容量のバランスにはそこまで大きな差がないかなと思います。Dartfishはクラウド容量に対してという意味では他と比べると割高に感じますが、タグの自由度の高さは抜群なので、自分たちがどのレベルのタグを作りたいのかを考慮すると良いのではないかと思います。
人数に対してクラウドをどのくらい使うのかはチームによると思うので
人数が増えるほど使うクラウド容量が増える(増やしたい)という人はSPLYZA Teams
人数が増えてもそんなにクラウド容量使わないという人はhudl・FL-UX
より複雑かつ自由なタグを作成したい人はDartfish
料金と容量という観点だけですが、こんな風に考えました。
もちろん機能面やユーザビリティなど比較事項はたくさんあると思いますので
参考程度に見てもらえるとありがたいです。
さらに言えば、クラウドはYoutubeを使うなり他のクラウドサービスを使用するなりでうまくやりくりできたりもするので、クラウドサービスも色々と検討すると良いでしょう。
以下に参考になりそうな記事を貼っておきます。
ツールの活用方法の参考になる本
料金や各ツールの特徴がわかった場合でも、
実際にどのように活用できるかがイメージできないこともあります。
そんな人には、『アナリストのすゝめ 「テクノロジー」と「分析」で支える新時代の専門職』がおすすめです。
著者はヴィッセル神戸やベガルタ仙台、横浜Fマリノスでアナリストをされていた杉崎健さんです。
プロアナリストの仕事内容やゲーム分析に必要な知識について書かれています。
ツールの活用についても触れられているので非常に参考になります。
ツールを使う前に・・・
本当にツールが必要かどうかを考えましょう。
分析ツールは非常に便利ですが、全てを解決するわけではないですし、
映像を振り返って簡単に編集するだけであれば、無料の編集ソフトでも問題ありません。
また、中途半端にデータを使おうとするよりも、説得力のある主観的な分析を行う方が良いと思います。
例えば下記の本ではデータを駆使するというよりも、主観的なゲーム分析の精度をあげるためのヒントが書かれています。
(絶版になってるのか、金額が高くなっているので図書館とかで探した方が良いかもしれません。)
他にも、いわゆる「サッカーを観る目」を養うための本は多く出版されています。
個人的なおすすめ本は下記記事で紹介しているので是非ご参照ください。
データを扱うにしろ、扱わないにしろ、「サッカーを観る目」を養うに越したことはないので、
明確な目的や使用イメージが無い場合は、ツールではなく自分にお金をかけても良いかもしれません。
このブログでもゲーム分析に関する記事はいくつか書いているので参考までにどうぞ。
以上です。読んでいただきありがとうございました。