このブログでは研究的な話も多くなってしまうので、
今回は、
ゲーム分析したいけど始め方がわからない
という人や
もっとゲーム分析の質を高めていきたい
という人向けに、より現場的なゲーム分析の話をしたいと思います。
押さえておきたいポイントは
- ゲーム分析の目的
- ゲーム分析を行う場合のパターン
- ゲーム分析のワークフロー
- マネジメント面で問題になること
こんな感じになります。
以下解説していきます。
長々記事を読むのが嫌だという人には
↑こちらがおすすめです。
横浜F・マリノスなどでアナリストをやられていた方が書いた本で非常に実践的かつ詳しくアナリスト活動について書いてあります。
この本の情報をもとに自分で考えるというのもとても良い方法です。
目次
実践的ゲーム分析のやり方
ゲーム分析の目的
最近は多くのチームがゲーム分析を取り入れたり、ツールが発展することによってそのハードルは下がっているように思います。
しかし、ゲーム分析を始める、もしくはすでにやっているという場合においても
ゲーム分析をする必要があるのか?
ということを常に問う必要があると思います。
そもそもゲーム分析は何の役に立つのでしょうか。
私が思うゲーム分析の貢献先は
コーチングサイクルの意識決定
です。
上記画像の中心にある「試合」→「振り返り」→「意思決定」→「試合の準備」がこの記事で言うところのコーチングサイクルです。
この「意思決定」においてゲーム分析は多大な貢献をします。
意思決定では
- 選手選考
- 戦術決定
- 練習内容の決定
などを含んでいます。
これらはフィードバックとフィードフォワードをもとに行われます。
ここではざっくり言うと
フィードバック=自チームの分析
フィードフォワード=相手チームの分析
としています。
この辺りは下記記事でも触れています。
例えば練習内容を決定する場合、自チームの課題と、次節の相手の特徴等を把握してから行うことが一般的です。
どちらの情報もない場合は、何となく練習内容を決定していくしかないでしょう。
自チームの分析は試合をリアルタイムで見ていることがほとんどであるはずなので、見返す必要がないと思われる方もいるかもしれませんが、人間の記憶力はそこまで信用できないので、見返すことがおすすめです。
ただ、それもどのくらいの時間と人数を割けるのかによっては、自分の感覚を頼りに全てを行う、行わざるを得ないと言うこともあるかもしれません。
つまり、上述した意思決定を全て自分の感覚で行える、もしくは行いたいと言う場合は、ゲーム分析(フィードバック・フィードフォワード)は不必要になります。
また、ゲーム分析を行う場合でもいくつかパターンが考えられます。
ゲーム分析を行う場合のパターン
ゲーム分析は先ほど書いたように、フィードバックとフィードフォワードに大別できます。
分析を行う際のパターンとしては
- どちらも行う
- 片方だけ行う
が考えられます。
個人的なおすすめは「どちらも行う」ですが、これはチームとしてゲーム分析を行う目的から逆算する必要があります。
前章で説明したように、どちらも行わないという選択肢もあり得ますし、
相手のことなんて関係ない、自分たちのやりたいことをとにかくやるんだ!
と言う哲学があるのであれば、フィードフォワードは不必要になります。
また、やる気があったとしても、ゲーム分析のために割ける時間と人数の問題が生じることもあります。
次にゲーム分析のワークフローを書くので、その後にまた時間と人数の話をします。
ゲーム分析のワークフロー
分析でやることは大きく分けると
- 映像を見る
- タグ付け(プレーを分類する)
- 資料作成(繋ぎ合わせる)
- プレゼンテーション(伝える)
になります。
これらについて順を追って説明していきます。
実際にゲーム分析をする場合は、まずスケジュール・ワークフローを決定することが最初の仕事です。
私がサポートをしているチームの分析スケジュール・ワークフローは大体以下のような感じです。
正確にいうと練習時間等の関係からスカウティングはミーティングではなく分析シートの共有にとどまっています。
スカウティングに関しては、映像を用いた資料作成はこれからの課題です。
✔️映像を見る
フィードバックにしろフィードフォワードにしろ、映像を見る作業は当然必須になります。
フィードバックでは、基本的には直近の試合を見ます。
フィードフォワードの場合は直近5~8試合程度を見ると良いでしょう。
映像を見る時には、局面や観点をある程度決めておくと分析がしやすくなります。
例えば
こんな感じですね。
これは一部ですが、なんとなく試合を見ると、一貫性が出なかったり、複数人で試合を見る場合に話が通じにくくなってしまったりと、デメリットが多くなってしまうので、局面・観点を整理して共有することは重要になります。
以下の本は映像を分析する観点として非常に参考になります。
モダンサッカーの教科書シリーズもおすすめです。
✔️タグづけをする(プレーを分類する)
次に、試合におけるプレーの分類を行なっていきます。
これは、ゲーム分析ツールを利用すると「タグ」と呼ばれる付箋のようなものをつけることで、行うことができます。
タグづけを行う理由の一つとして、分析作業の効率化があげられます。
例えば、自チームのシュート場面をピックアップしたい時に事前にタグがつけられていれば、何度も再生する必要がなくなります。
このように、何度も試合を見る場合には、タグが付いている方が時間を有効に使うことができます。
また、タグの数をカウントすることによってデータをとることも可能です。
多くのツールでは、様々なタグを作成・使用することができるのですが、
タグ付けをどのレベルまでやるか(どこまで細かくするか)によって、仕事量が大きく変わります。
これから始めるという場合は、まずは
気になったところをピックアップできるようにしておく
ということが目標になると思います。
私たちは、ひとまず「フィードバック」タグを使用することで、フィードバックに使用する可能性のあるプレーを分類しています。
有料ですが、hudlアシストという簡易なタグはつけてくれるというサービスもありますし、今後はこの辺りはさらに進化していくでしょう。
✔️資料を作成する(繋ぎ合わせる)
映像ミーティングで使用する映像資料ですが、現状はHudlで
該当プレーをピックアップしてダウンロード→映像編集ソフトに入れて編集する
という手順で映像資料を作成していきます。
映像編集ソフトは無料のものから有料のものまで様々あります。
映像編集の質を高めたい場合は、Final Cut ProやPremierProなどの編集ソフトがより良いでしょう。
予算がある場合はSportscodeのStudioという機能を使用すると早いみたいですが、、、
このように予算的な問題もチームによってはあると思うので、色々な方法を試して一番自分たちにとって無理なく効果的に行える方法を見つけます。
資料作成時に重要になることは
- どれだけ要点が絞られているか
- ストーリーを重要視する
であると考えています。
どれだけ要点が絞られているか
特に分析始めたての時は、色々なところが気になると思います。
しかし、気になるシーンの全てをフィードバックしていては、単純に時間がかかり過ぎてしまいます。
人間の集中力はそこまで長く保てません。さらに、処理できる情報量も限られています。
そのため、映像ミーティングは15分程度で終わることが理想的です。
説明や映像の繰り返しなどを考えると、実際の映像は5~10分が限度でしょう。
そのため、取り上げられるシーンは限られるので、要点をきちんと絞り込むことが重要になります。
ちなみに、気になるシーンが多くなり過ぎてしまう原因の一つとして、抽象化が苦手というパターンも考えられます。
その辺りのことは以下の本に詳しいのでおすすめです。
ストーリーを重要視する
映像は見せる順番も重要です。
基本的には局面毎にまとめることや、自陣から相手陣へ、そして相手陣から自陣へという流れで見せることが推奨されます。
情報が散らかっていると処理が難しくなるので、せっかく映像編集したとしても効果的ではなくなってしまいます。
どのようなストーリーでミーティングを行うか、はじめ方、終わり方から考えてみると良いです。
✔️プレゼンテーション(伝える)
実際に映像資料を作成したら、ミーティングとなります。
映像資料の質を高くすることも当然重要なのですが、どのような説明をするかも非常に重要です。
効果的に伝えるためには
- 高い論理性
- 言葉の正確性
- 共通言語の確認
以上が重要だと考えています。
高い論理性・言葉の正確性については多くの本が出版されています。
他にも多くの良書が出版されているので、学びやすい部分ではあると思います。
あとは練習あるのみです。
共通言語の確認については、例えば
ハーフレーンやポケット、ウイングバックなどチームによっては微妙に定義が違ったりする専門用語があると思います。
この辺りはきちんと確認して、同じ言葉から同じ絵を描けるようにしておかなければいけません。
マネジメント面で問題になること
どれだけのエフォートを割けるのか?
さて、以上のような流れを見た際に、考えられる問題は
時間がない
人がいない
ということです。
分析は正直かなり時間がかかります。
ツールで多少効率化できるとはいえ、それでも試合をフルマッチ見ることに変わりはないので、シンプルに試合以上の時間はかかります。
その負荷を軽減させるためには、役割分担が重要になってきます。
ありがたいことに私が所属するチームでは分析班にある程度の人数を割くことができています。
そのため、フィードバックもフィードフォワードもどうにか形になってきているかなと思っています。
しかし、どのチームでもそういった形は取れるわけではないことも理解しています。
そこで、現実問題どこまでの時間と人を投入できるのか、これらに加えて監督の優先する事柄を鑑みて、バランスをとります。
例えば私がサポートしているチームの場合は、映像ミーティングを行えるタイミングが週に1回しかないことから、フィードバックとフィードフォワードどちらのミーティングをすべきか、という問題に当たりました。
監督と話した結果、フィードバックを優先したいということで、フィードバックを映像ミーティングとして行っています。
このように、様々な制約がどのチームにもあると思うので、その最大公約数を取れるような選択をしていくことが求められます。
では、人数や時間がある程度割ける場合のマネジメントはどうすれば良いでしょうか。
次は現状の私たちの実際から、それらについて解説します。
分析を複数人で行う場合のマネジメント
複数人で分析を行う場合には、
- 役割の設定
- 全体像の提示
- スケジュールの設定
- 分析の枠組みの作成・すり合わせ
- 繰り返しながら改善を重ねる
以上がポイントになってきます。
✔️役割の設定
まず人数・時間・チームの目標などから逆算して、どこまで分析を行うか(例えばフィードバックだけとか、フィードバック・フィードフォワード両方とか)を設定します。
その後、それぞれに役割を設定していきます。
例えばフィードバックを行う人、フィードフォワードを行う人、という形です。
今は私たちはフィードバックに2人、フィードフォワードに2人、統括1人(私)という分担で行っています。
✔️全体像の提示
役割を決めたら、どのようなサイクルで進めていくか、どのようなレベルを求めるか、などの全体像を提示して共有します。
すでに分析班の活動実績がある場合は、実例を見せることが手っ取り早いでしょう。
✔️スケジュールの設定
全体像の提示の中にも入るのですが、スケジュール、特にミーティングの日を決定します。
ミーティングの日から逆算して他の仕事をスケジューリングしていきます。
スケジュールが決まらないと何も進まない、逆にいえばスケジュールを決めてしまえば頑張るしかなくなる、ということを最近実感しています。
✔️分析の枠組みの作成・すり合わせ
前述しましたが、フィードバック、フィードフォワード共に分析の枠組みを決めて、基本的にはその枠組みに従って分析を行っていきます。
観点・局面を揃えておくと、見やすく、話しやすいという利点があります。
気をつけることは、指摘だけにならず解決策まで考えておくことです。(どこまで提示するかは監督次第。)
✔️繰り返しながら改善を重ねる
その後はスタッフミーティングやゲーム分析ミーティングの振り返りをしながらより良い方法などを探すなど改善を重ねていきます。
こればかりは地道に話し合ったり考えたりを繰り返すしかありません。
まとめ
ゲーム分析を始めるにあたって、知っておいた方が良いと思うことについて書いてきました。
大きくは以下のポイントになります。
- ゲーム分析の目的
- ゲーム分析を行う場合のパターン
- ゲーム分析のワークフロー
- マネジメント面で問題になること
当然、これが絶対的な正解というわけではないので、チームにフィットする形を模索する必要はあるでしょう。
ただ、どのようなチームであっても前提知識としては、必要なことを書いたつもりなので、参考にしてもらえるとありがたいです。
以上、ご精読ありがとうございました。