ゲームモデルやプレー原則といった考え方が日本でも少しずつ定着してきていますが、以前は「ゲーム(プレー)スタイル」という表現が似たような意味で使われていました。
ゲーム分析の論文でこのような戦術的な面について検討することは簡単ではないのですが、2016年に「ゲームスタイルは定量化できるのか」という論文があったのでレビューします。
目次
ゲームスタイルは定量化できるか。
目的
「ゲームスタイル(プレーパターン)」を評価(測定)するためのフレームワーク(測定項目+構造)を記述すること。
方法
サッカーの局面を攻撃・攻撃から守備・守備・守備から攻撃・セットプレーの5局面に分類し、それぞれの局面においてゲームスタイルを測定するために重要な項目を論文をレビューすることで検討。
結果
攻撃
攻撃局面では、
- シュート数
- パス本数
- ポゼッションレベル
- パスの連続性
- パス密度
- パスの効率性(正確性)
以上の項目がリストアップされています。
ポゼッションレベル
ボール支配率は勝敗との正の相関があり、攻撃の指標の一つとされている一方で、様々な要因が複雑に関わるため、勝敗に影響を与える要因の一つにすぎないという見解が支持されています。
しかしボール支配率を高く保つことを重要視するチームはそうでないチームと比べてボールを素早く奪い返す戦術をとる傾向があり、ゲームスタイルに影響する可能性があるとしています。
パス本数
ボールポゼッションは選手個々のパス能力に依存する部分があります。
個々のパス能力とは、単純な止める・蹴るの能力だけではなく、チームメイトのポジショニング・プレイヤー間の関係性、動きのパターン等も含まれます。
また、チームとしてパスを回しながら相手の守備組織の弱点を狙う能力は、攻撃局面のパフォーマンスを測る変数としてChassy(2013)が提案しています。
これらのことからパス本数も、シンプルですがゲームスタイルを反映する変数であると考えれます。
パスの連続性
連続パス本数のことだと思われますが、5本以上の連続パス数からのシュートの方が、4本以下の連続パス数からのシュートよりも得点率が高いことが先行研究で明らかにされています。
パス密度
Pass densityをパス密度と訳していますが、「1分間のポゼッションで何本のパスが行われたか」です。
パスの効率性(正確性)
パス成功率とほとんど同じ意味だと思われます。
サッカーの勝敗にパスの正確性は重要であり、ポゼッションやゴールに向かう助けになることで得点機会を増やすことにも繋がります。
攻撃から守備
攻撃→守備の局面では以下の項目があげられています。
- チームエリア中心位置・面積の変化率
- 選手の密度
- ターンオーバーの場所
- 選手のスピード
- 選手の距離間
- 守備への切り替えスピード
チームエリア中心位置・面積
チームエリア中心位置とは「ゴールキーパーを除くフィールド選手10人のx座標,y座標をそれぞれ平
均して得られる座標点」(大江ほか,2013)で、面積も同様の方法で算出されます。
選手の密度
選手の密度は、ボールの周り5m以内にいる選手の数によって定義されます。
攻撃時は密度が低い方が、守備時は密度が高い方が良いとされています。
守備
守備局面では以下の項目があげられています。
- チームエリア面積
- チームエリア中心位置
- 選手の距離間
- 選手の密度
ボールを奪うためにどのような行動をチームとしてとっているかを測定するための項目だと思われます。
守備から攻撃
守備→攻撃の局面では以下の項目があげられています。
- ボールスピード
- チームエリア中心位置・面積の変化率
- 選手の密度
- パスの長さと本数
- 選手のスピード
- 攻撃への切り替えスピード
切り替え局面ではスピードがゲームスタイルを規定する要因の一つになっています。
セットプレー
セットプレーでは以下の項目があげられています。
- セットプレーの種類
- 場所と成功確率
サッカーにおける得点の30%程度はセットプレーからのものです。
また、1966年のWC決勝ではFKを蹴るまでにかかっていた時間は38秒であったのに対して、2010年には63秒まで増えています。
セットプレーの重要性が高まり、より時間をかけるようになっているようです。
セットプレーをどのようにデザインするかもゲームスタイルを表す一つの要素となっています。
まとめ
論文内でも述べられていますが、作成されたフレームワークは大枠であり、可能であればより多くの項目を測定する必要があります。
以下の本の著者の方のように、実践現場では自チームや相手チームを評価するために詳細なフレームワークを作成しているチームはたくさんあります。
研究でもより実践的な分析用フレームワークの作成とその効果の検証が求められます。