ゲーム分析 データ分析 実践現場

【アナリストは何をしているのか】「データ」を「情報」に変える方法【ゲーム分析】

先日サッカーのアナリストについて調べていて、良い動画を見つけました。

タイトルは「【サッカーのデータ活用~攻撃編~】プロの現場の事例も紹介します。」

データスタジアムの公式チャンネルの動画なのですが、

  • 実際に現場がどのようなデータを扱っているのか
  • 分析の過程
  • アナリストの考え方

について知ることができます。

かなり踏み込んだ分析を見せている!という感じではないのですが分析の概要を説明してくれています。

すでに現場でデータを扱っている方など、熟練者にとっては物足りないかもしれませんが、

  • アナリストはそもそも何をしているのか?
  • データを現場に活かすためにはまず何をするとよいのか?

という疑問を持つ人にとってはとてもわかりやすい動画だと思いました。

おそらく動画自体もそのような人達をターゲットにしているのではないかなと。

そこで今回は動画を見て整理した、データを現場に活かすポイントについて書きました。

データを現場に活かすには

データを情報に変える

ここでは、データ=ゲーム分析で得られた数値とします。

例えばシュート数やクロス本数などです。

そして、情報=伝達相手の行動に変化を起こす文字や数値とします。

ゲーム分析によって得られた数値を変換して伝える相手(選手やスタッフなど)の行動に(ポジティブな)変化を起こすことができれば、現場に活きる分析といえると考えています。

そのためのポイントとして以下があると思います。

  • 状況を細分化する
  • 全体から個人へ
  • 議論の種にする

それぞれ解説します。

状況を細分化する

サッカーは流動的で複雑なスポーツです。

データをとるだけだと様々な状況が入り混じっている可能性があります。

しかし指導現場で必要とされるのは、特定の状況を想定した練習であることが多いと思います。

そのためデータは適切に状況分けすることが重要になります。

動画では、まずサッカーの局面構造を以下のように分類しています。

  • 攻撃
  • 攻撃→守備
  • 守備
  • 守備→攻撃

より細かく局面を分類する場合もあると思いますが、一般的には4局面になります。

さらに細かく見ていくために、例えば攻撃であればビルドアップ、崩し局面、中央突破、サイド攻撃などの分類が考えられます。

これらはデータをかけ合わせたりすることで分類ができます。

上記の動画ではゴール前の分析、特にPA内への侵入を例に挙げています。

全体から個人へ

まず1試合当たりのPA内への侵入回数を見ています。

これによりチームとしてどの程度PA内へ侵入していたかを確認することができます。

PA内への侵入回数はチームの攻撃を評価する指標として有用であることは論文でも述べられています。

次に侵入過程についてのデータを見ます。

侵入方法はドリブル・キープ、スルーパス、クロス、30m未満のパス、30m以上のパスに分けられていて、それぞれの割合が確認できます。

フロンターレはドリブルからの侵入が多いということで、「誰」の侵入が多いかという議論に移っています。

このように文脈に沿って全体のデータから個人のデータへ考察を進めていくことは、相手チームの対策を立てたり、チームの強みを知ることや選手評価の際に有効だと考えられます。

さらに、フロンターレでは三笘選手のドリブル侵入が多いというデータから、ボールをもらう前の動きについて言及しています。

この段階で数値を分析する量的分析から主観による分析である質的分析に移行しました。

このような質的分析によってゲームプラン、トレーニング計画などの最終決定は行われます。

そのため、データを分析する側にもサッカーを観る目が求められます。

議論の種にする

上記の質的分析とは、「試合中のチーム・選手のプレーを観察して主観的にパフォーマンスを分析すること」(中川,2019)であり、「専門家の視認的方法によって技術、戦術、技能、チーム力などが質的に評価され、記述される」(鈴木・西嶋,2002)ものです。

質的分析は、観察者のゲームを観る目が確かであれば非常に効果的な手法ですが、分析者の主観性や恣意性を排除することができないといったデメリットがあります。

そのため質的分析のみに頼ると、場合によっては議論が非効率的になってしまったり、深さが出ない可能性があります。

同じ試合を見ても課題と感じる部分は人によって違ったりしますよね。

もちろんそのような違いをもとにした議論が素晴らしい結論を生むことも多々ありますが、数値という基準をもち、上述したような方法で議論していくことも非常に重要だと思います。

データを議論の種にすることで現場に活かすということです。

動画の中でも

印象も大事だがより客観的な事実からの議論が可能になる

といった量的分析のメリットが述べられています。

量的分析のデメリットは、プレーヤーが考えていることまでは推察できないことや平均を用いることで重要な例外が見えなくなる等があげられます。

つまり、質的分析と量的分析は補完関係にあるため両方行うことがとても大事だと考えられます。

まとめ

データを現場に活かすにはどうするかについて書いたつもりなのですが、まとめると

  • データを情報に変える

方法① 状況を細分化する(局面構造ほか)

方法② 全体のデータから考察して個人のデータまでみる

方法③ 議論の種にする(議論の効率化と深掘り)

「議論の種にする」は動画内で出ていた言葉ですが、アナリストの射程を捉えていていいなと思いました。

データ分析がすべてを解決するわけではない

上述したように、データ分析(量的分析)は質的分析と合わせることでより高い効果が生まれます。

質的分析と量的分析の割合をどうするかは指導者やチームによると思いますが、下記記事が参考になるのではないかと思います。

Jリーグのアナリスト養成所!?筑波大学蹴球部のデータ分析術

実際にトップカテゴリーのアナリストがどのように質的・量的分析を行っているかについては今後研究予定です。

最後に

動画ではデータ分析の概要とちょっとした分析結果について触れている感じでしたが、それでも上記のことを推察・整理することができました。

今はアナリストの養成講座やオンラインサロンなど、アナリストについて学ぶ場がどんどん増えてきています。

日本人は細かいことに気づいたり地道な作業に強かったりするので、アナリスト大国になるかもしれません。

おすすめの本

サッカーのデータを扱った本では以下のものがおすすめです。

ふと思ったのですがサッカーのアナリストの本を見たことがないです。

監督の方々が本を出しているので、そろそろ出てきてもおかしくないですかね。

※2021年5月追記

そんなことを言っていたら、アナリストの杉崎さんという方の本が4月末にでました。

Jクラブのアナリストが何をしているのか、アナリストには何が求められるのか、その概要や詳細が書かれた本となっています。

プロのアナリストの仕事内容を知ることのできる貴重な一冊です。

参考文献

中川昭(2019)ゲームパフォーマンス分析の意義と目的―記述分析に焦点を当ててー.日本コーチング学会編,球技のコーチング学,大修館書店:112-121.

鈴木宏哉・西嶋尚彦(2002)サッカーゲームにおける攻撃技能の因果構造.体育学研究,47:547-567.

-ゲーム分析, データ分析, 実践現場

Copyright© サッカー研究者のブログ , 2024 All Rights Reserved Powered by STINGER.