「ゲームパフォーマンス分析って何?」と聞かれて明確に答えられる人は少ないのではないでしょうか。
この記事ではゲームパフォーマンス分析について以下の観点から解説をします。
- 定義
- 目的
- 何を
- なぜ
- どこで
- いつ
- どのように
少し長めなので興味のある所だけかいつまんで読んでみて下さい。
そういうことじゃなくてもっと現場的なことだけ知りたい!という人は以下の記事をご覧ください。
【アナリストは何をしているのか】「データ」を「情報」に変える方法【ゲーム分析】
目次
ゲームパフォーマンス分析とは何か
ゲームパフォーマンス分析の定義
ゲームパフォーマンス分析は、実際の試合で起きたパフォーマンスを分析するものと定義されます。
実際の試合を対象とするので、制限のかかった実験などとは違い、多くの要因を複合的に分析・評価をすることができます。
一方で、そのような複雑なパフォーマンスを適切に分析・評価するには分析する人が熟達している必要があります。
人間は認識できるものしか見ることができないとされています。
例えば日本人にとって虹は7色ですが、言語化されてる色の種類が少ない国では2色に見えるそうです。つまり、特定のスポーツの分析を行う際にはそのスポーツに関する知識がないと、課題や現象を見ることができない可能性があります。
逆に言えば知識を増やす等によって、見る目を養っていけば多くの現象が見えるようになると考えられます。
日本では「ゲーム分析」と略称されることが多いため、本記事でもゲームパフォーマンス分析=ゲーム分析とします。
ゲーム分析の目的
ゲーム分析の多くは以下の目的で行われています。
- コーチング
- メディア
- 審判
- 研究
この記事ではコーチングにおけるゲーム分析を中心に解説します。
何を分析するのか
スポーツのパフォーマンスは非常に複雑です。その中で何を中心に分析を行うのかが重要になりますが、代表的なものは以下の分析です。
- 技術の分析
- 戦術の分析
- 有効性の分析
- 動きの分析
技術・戦術の分析
技術・戦術の分析は、試合中に発揮された技術・戦術の種類や頻度を測定し、その結果から技術や戦術の重要性などについて考察します。
どちらの分析においても測定項目の定義を的確に行うことが必要となります。
例えば「攻撃回数」を測定したい場合、何をもって「攻撃」とするかが明確でないと正確に測定することはできません。
有効性の分析
有効性の分析は、主に技術や戦術がどの程度成功しているかを分析するものです。
目的によって何を「成功」とするかが変わります。
攻撃の分析で代表的な「成功」は得点とシュートですが、得点を「成功」とするとシュートを「成功」とする場合と比べて攻撃の成功率は低くなります。
分析の目的を明確にすることで、どちらを「成功」とするか、もしくは両方を含めて「成功」とするのかを選択することができます。
動きの分析
動きの分析は、身体がどのように動いていたか(関節の動き、走るスピードなど)や選手の立ち位置といったものを対象に行うものです。
特にGPSやトラッキングシステムを使って走るスピードを記録することで、動き(ウォーキング、ジョギング、スプリントなど)を分類して分析することは、ワークレート分析、タイムモーション分析と呼ばれています。
主にはこれらのことが単一、もしくは複合的に分析されます。
なぜゲーム分析を行うのか
スポーツコーチングには、「試合→振り返り→意思決定→試合の準備→試合・・」といったコーチングサイクルがあります。
その中でゲーム分析が重要な役割を果たすのは「意思決定」時です。コーチは試合を振り返ること(フィードバック)で課題とその改善方法を考えます。
優秀なコーチでも試合に対する記憶は59.2%であるという研究結果があることから、記憶に頼ったフィードバックは正確性を欠くとされています。
優秀なコーチでも試合内容は59.2%しか覚えていない?【論文レビュー】
ゲーム分析は、このフィードバックの正確性を高め、次の試合のためにどのようなトレーニングを行うべきかといった意思決定の根拠となる客観的資料を提供することができます。
他にも相手チームの情報を分析してトレーニングに落とし込むこと(フィードフォワード)などにも用いられます。
どこでゲーム分析を行うか
ゲーム分析は主に以下の場所で行われます。
- 試合会場
- 試合会場から家に帰るまでの間
- 自宅
- 分析室
- 研究室
試合会場
試合会場では、指導者や分析担当者が目的に応じて手作業もしくはゲーム分析ソフトなどを利用し分析を行います。
分析ソフトでは、チーム独自に分類したタグを利用することで、素早く必要な映像を見ることができます。
また、試合会場で分析を行うメリットは何と言っても即時性です。
例えば、前半の映像を編集してハーフタイムに選手に見せることができたり、
改めて映像を探す手間が省けるので、試合後や週の頭にフィードバックできます。
試合会場から家に帰るまでの間
試合会場から家に帰るまでの間に分析が行われることもあります。
マンチェスターシティに密着したAll OR NOTHINGの中でグアルディオラは試合の帰りの飛行機内で映像を確認しながらメモをとっていました。
このマンチェスターシティの密着動画では、ゲーム分析・ミーティング・トレーニング映像が少し見られるのでおすすめです。
Amazonのオリジナル動画なのでAmazon以外で見られないのが難点ですが、内容的にもとても面白いので未視聴であれば是非見てみて下さい。
自宅・分析室・研究室
自宅・分析室・研究室は基本的には試合後の分析を行う場合に利用します。
パソコンが1台あればゲーム分析を行うことができるので、私の場合は自宅兼分析室兼研究室で行っています。
いつ分析を行うのか
ゲーム分析のタイミングは試合中と試合後に大別されます。
試合中に行われる分析は、試合中のフィードバックや試合後のフィードバックを円滑に進めることを可能にします。
例えばサッカーでは、前半の課題を修正するためハーフタイム中に分析結果や映像を選手に提示することがあります。
ラグビーワールドカップでのロッカールームの映像でも話題になっていましたが、多くの競技でこのような即時的フィードバックが行われています。
また試合後の分析を行う際、試合中の分析メモや、ゲーム分析ソフトによるタグ付けによって、見たいシーンを素早く探すことができます。
試合後の分析は、チームや個人の課題の発見などによって次の試合に向けたトレーニングの作成に役立ちます。
また、試合映像を編集しミーティングなどで見せることで、課題や次の戦い方をチームに共有することができます。
どのように分析を行うのか
データの取得、処理、発信に分けて解説します。
データの取得
- 映像を見て自分でデータをとる
- データ会社からもらう
- GPSなどを利用する
などの方法があります。
自分でデータをとる
「映像を見て自分でデータをとる」は、そのままの意味ですが、例えばパスの本数を数えたりシュートの位置を記録したりすることが当てはまります。
メリットとしては自分の欲しい情報を自分で定義して集めることができることです。
もちろん手作業でも可能ですが、スポーツコードやダートフィッシュなどのゲーム分析ソフトが有名です。
データ会社からもらう
データ会社はInStatやWyscoutが有名で、TVではOptaのデータが使われているのをよく見ます。
日本にはデータスタジアムがあり、Jリーグのデータを中心に扱っています。
このようなデータ会社が扱っている各国のトップカテゴリーの試合データは購入することができます。
自分でデータを取ることとデータ会社のデータを利用することはメリットとデメリットがそれぞれあり、以下の記事で解説しています。
GPSを利用する
GPSはトップカテゴリーはもちろん、育成年代に至るまで幅広く普及しつつあります。
カタパルトの名前をよく耳にしますが、本田選手が携わっているKnowsのように新たな企業も参入しているため、今後も選択肢が増える可能性があります。
GPSによって選手の移動速度や距離についてのデータが得られます。
これらのデータはサッカーでは、試合や練習の強度・負荷の目安として扱われることが多いようです。
競技パフォーマンスとの関連を見出すことは意外と難しかったりします。
データの処理
数値データについては、分析ソフトやExcelのような表計算ソフトによって集計します。
研究では、比較する場合は必ず統計処理を行うのですが、実践現場では求められないことが多いと思います。
数値以外の、試合における課題については映像編集ソフトなどを用いて、伝わりやすいように編集されます。
編集ソフトはサッカー界ではEDIUSやPremier Proを使用している人が多いと思います。
私は以前はEDIUSを使っていましたが、今は所属機関がAdobeと契約しているためPremier Proを使っています。
ちなみにEDIUSは通常版とアカデミック版がありますが、アカデミック版は品薄になりがちのようです。
発信の方法
得られたデータは処理して多くの場合は以下の形で発信します。
- 映像
- 図・表
- 文章
映像はミーティングで使用したり、動画配信サイトで共有したりします。
今はYoutubeなどを使うことで簡単に選手に共有できるようになっていますね。
図・表は数値の意味を整理し視覚的に理解しやすくします。
文章は図や表の補足であったり、図表で表現できないことを伝える際に有効です。
これらによって、得られたデータは「情報」となります。
伝えたいことが最も伝わりやすいと考えられる形で発信することが重要です。
最後に
今回の記事は以下の本を参考にしています。
もっと詳しくゲーム分析について知りたい人は是非読んでみて下さい。
より実践的なゲーム分析についてはこちらがおすすめです。