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実践研究・事例研究の価値はどこにあるか【なぜ記録が重要か】

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今回の記事は「実践研究」、特に「事例研究」の価値についてです。

実践現場にいる方々は全員実践研究者になり得ると考えられ、実践研究者を増やすことがコーチング界の発展にも繋がると考えています。

実践研究・事例研究・実践科学に興味のある方はご一読いただけると嬉しいです。

本記事は以下の本を参考に書いています。

(こちらの本を読んだことがある、これから読むという方は記事を読まなくても良いかもしれません。)

実践研究とは

「一般化」という言葉をご存じでしょうか。

大辞林では以下のように定義されています。

あるグループの一部の事物について成り立っていることから、そのグループ全体について成り立つように論をおしすすめること。普遍化。

ちなみに「普遍化」

個別的・特殊なものを捨て、共通なものをとり出すことによって概念や法則などを引き出すこと。

とされています。

基本的に自然科学が目指すものはこの一般化・普遍化であり、自然科学の価値もこの部分にあると考えています。

例えば日本人の一部を対象として実験を行い、その結果が日本人全体で成り立つという形で考えれば、

多くの人が研究の恩恵を受けることができます。(実際はもっと限定的ですが。)

ただし、デメリットとしては、普遍化の定義にあった

「個別的・特殊なもの」が捨てられることにあります。

実践現場というものは「個別的・特殊なもの」の割合が高いものです。

そのため、自然科学の研究結果をそのまま適用・応用させることは難しくなります。

逆に、実践現場で得られた「個別的・特殊なもの」としての経験や成果を自然科学の枠組みで研究することも難しいのです。

そこで重要になってくるのが「実践研究」です。

実践研究には様々な定義がありますが、広義には

  • 実践現場の貴重な情報をもとにした研究
  • 実践に役立つ知を明らかにする研究

とされています。

実践研究の分類

実践研究は実証研究事例研究に大別されます。

実証研究は

自分が興味を持っているテーマについて、ある仮説(予測)を立て、それを検証し、当初の仮説に対する答えを得ることを目的とした研究

とされています。

こちらは自然科学的な手法を活用して行われることが多いです。

事例研究は、

自分が興味を持っているテーマについて、ある実践を行い、それを検証し、テーマに対する仮説を得ることを目的とした研究

とされています。

個人的には実践研究のイメージは事例研究の方が強いです。(博士課程で授業があったことが大きいかもしれません。)

特に事例研究においては、量的な指標(主に数値)が存在しない、競技者の主観的経験や専門家の直観的な知などを明らかにするための「質的研究」が用いられることも多く、個別事象・事例を取り扱うことができます。

このことから、実践現場にいる方々は、普段個別事象・事例を扱っているため、事例研究についての理解を深めておくとコーチングの助けになると考えられます。

事例研究が効果的な場合とは

それでは事例研究はどのような時に効果を発揮するでしょうか。

それは、実践研究の対象となったチームや選手の個別性・特殊性が、自身の指導現場のチームや選手の個別性・特殊性と近似している場合です。

この場合は、研究結果を自分の現場に適用・応用させることがある程度容易になると考えられます。(当然そのまま使うことはできないことが多いはずなので、調整は必要になります。)

ただ、研究対象と状況が大きく違う場合でも、知識として持っておくことは全く問題ないですし、

指導現場が変わった場合にもしかしたら近い状況になる可能性があるので、知っておくことに越したことはないと思われます。

自然科学が広く浅くという性質を持つと考えると、事例研究は狭く深くという性質を持つことになります。

バチっとはまるとかなり助けになるでしょう。

どちらがいいという話ではない

自然科学と事例研究、どちらが良いという結論は当然ながら出ません。

どちらにもメリットとデメリットがあって、それらをきちんと理解していることが大切です。

それは研究の射程を明確にするということであり、何ができて何ができないかを知っていれば、適切な形でツールとして使用することが可能になります。

現場に身を置く私たちができることは

それでは、指導現場に身を置く人間はどうすれば実践研究を行うことができるのか。

もしくは指導現場に実践研究の結果を活かすことができるのでしょうか。

これはひとえに

記録をつける

という行為にかかっています。

なぜなら、先述した事例研究の定義にあった、実践・検証・仮説というサイクルは、実践現場において通常行われていることだからです。

このようなサイクルを何かしらの媒体に記録をつけ、それを振り返ってまとめるという作業が、精度によっては研究になります。

また、記録をつけていくことによって、実践研究を読んだ時に自分の現場とどの程度の近似性があったのかを確認することができます。

記録をつける際は、ただ何があったかという事実だけではなく、その事実に対してどのような評価を行ったかという、主観的な情報を盛り込むことが重要です。

サッカーノートなどはその代表であり、知の蓄積としてとても効果的です。その指導者バージョンだと考えれば良いでしょう。

逆にこれは、実践現場に身を置いていないとできないことでもあります。

このような実践現場の記録を特定の観点からまとめると「事例報告」となり、他の事例にも共通するであろう普遍性などを見出すことができれば「事例研究」となります。

まとめ

私が考える実践研究の中の事例研究の価値は

  • 「個別的・特殊なもの」を拾い上げることができる
  • 実践現場に身を置いていれば遂行可能
  • 実践現場にダイレクトに影響を与えられる可能性がある

以上になります。

はじめにも載せましたが、以下の本を参考に本記事は書いています。

より深く実践研究について知りたいという方はぜひ読んでみてください。

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